「なんだよ、これー.....」
おれは鏡の前で、
消えいるような声で唸り絶句した。
その横ではニコニコと満足そうに
笑みを浮かべて立っている使用人。
「良くお似合いですよー。まるでお人形のようですね。可愛いです」
おれ、神咲せつらは
今日が高校の入学式。
入学式へ行くため、
制服に腕を通した、のはいいが、何故か採寸の時よりもスカートが短い気がする。
.....のは気のせいなのか?
女の子の制服を着てはいるが、
おれは男だ。
あ.....いや、正確には男だった。
これには深い事情がある。
これは呪いだ。
現実逃避で言ってるんぢゃない。
本当に呪われている。
魔女に。
****
昔約20年ほど前、
ウチの馬鹿おやじは母さんとの結婚前夜に、
仲間と結婚祝いと称して「残念、脱独身」という....まぁ所謂バチェラーパーティーをしてハメを外し過ぎた。
運悪く、
ハメを外した相手は
魔女だった。
おやじが魔女に対して
誠実な対応をしなかったせいで、
魔女は怒り狂い、呪いをかけ、
とばっちりはおれへと来た。
呪いの内容はこうだ。
「そなたらの御子に呪いをかけた。
だがワタクシも鬼ではない。
17の歳の誕生日までに呪いを解かなければ呪いは永遠だ。」
そのときはおやじ達も
何の呪いだか分からなかった
第一子、第二子、第三子
どの子にも、
何の兆候も見られず、
魔女の呪いは失敗したと踏んで、
母さんは第四子を産んだ。
それがおれだ。
何事もなく年が過ぎ、
みんなが呪いなんてのを
忘れかけた10歳のおれの誕生日、
事件は起こった。
暗い空に光る、丸い月が欠けたその夜、
何の前触れもなくおれの身体は女の身体
へと変わった。
正確には、アレが無くなったんだ。
男の大事なアレが。
おれの(将来なる予定の)立派な逸物は一晩にして消え去り、股はつるっつるになっていたんだ。
おれは愕然としていたが、
何故か周りは順応早く、
この状況を喜んでいた。
それからは
まるで砂糖菓子でも
扱うように女として
おれを育てるようになった。
そして、女としての生活にも服装にもだいぶ慣れてきた。
だけど、
この短いスカートはあり得ない。
間違っても
おれは女装趣味なんかぢゃない。
****
「怜愛、楽しんでるだろ?」
「いいえー、まさかー。こんな大事な日に滅相もないですよー」
「ほーん?」
「ふふ、少しだけ、ね。だってしょうがないぢゃないですかー!
せつらさまのミニスカート姿なんて滅多にない事ですからね。
存分に堪能しなきゃでしょー」
「堪能って何堪能するってんだよ。
あ、そういやー怜愛もコレ、着るんだろ?
おれも怜愛のミニスカート姿存分に堪能しなきゃなー!にししし」
おれはお返しだとばかりに言い返しほくそ笑んだ。
だが、言い返しも虚しく相手の方が一枚上手。既に打開策を打っていたらしい。
「いいえー、
私はこの格好のままですよ。
そう学園側の許可も得てますからね。
ふふふ残念。」
「えー、何だよそれー!ずりーよー」
「流石にミニスカートはこの歳ですし、
何より内部事情を知っていたら、痛いでしょう?」
「あーまぁ確かに.....。
けどおれも同じなんですけどー」
「ふふふ、せつらさまは正真正銘の女の子ですからー」
この人はおれの専属使用人、メイド兼護衛。
芹沢怜愛(怜士)、おれの良き理解者で相談相手だ。
そして、正真正銘の男だ。
メイドの格好をしているけども男だ。女装は趣味らしい。
「おれは男だー!」
「せつらさま。いい加減お言葉には気をつけてくださいね。
それと、《おれ》ではなくて《わたし》でしょう?」
言葉はマトモなのに
声音はまるで脅迫紛いだ
「ぐ。はーい.....わかってるよーう」
「いいですか?本当は男だったとバレないようにすること、詳しく調べられると流石に誤魔化しはききませんから。それと、「呪われし者」だと知られないように。くれぐれも背中には気をつけてくださいね。」
「ふぉーい。
なー、本当に学園にいるのかなー?
魔女の近しい人物ってのは。」
「多分....ですけどね。
でも信頼できるスジからの情報ですから信じても大丈夫かと思いますよ」
「よーし、サッサと呪いを解いて
脱★ミニスカートだっっ!!」
「ぶっ。何ですかそれは.....。
そんなにミニスカートは嫌ですか?」
「嫌だ!!」
時を同じくして、
ヴァージニア州 マクレーン
"CIA本部 ラングレー"
「Hello, Meredith!」
「やぁ、サンチェス!」
「おい、今日日本に経つんぢゃなかったのか?」
「いや、予定より引き継ぎが上手くいかなくて......今日の夜経つ予定だ。」
「そうか。まぁあっちで上手く行くといいな。三年は日本だろ?寂しくなるな」
「まぁ、任務と目的の物が見つかればすぐ帰国だ。それまでの辛抱かな。幸運を祈っててくれ」
「お前なら余裕だろう。
頑張ってこいよ」
「あぁ、じゃあまた」
「Good luck. 」
。。