「あぁん?

テメェ何、変な顔して遠くなんか見つめてんだよ!

あんまり俺らの事馬鹿にするとその綺麗な顔、傷もんにすっぞ!いいのかよ!」




私の長い髪を強引に引っ張りながら男の一人がそういった。


むせ返るほどキツイ下品な香りが私の鼻孔を刺す。
ああ、だめだ、今はこの状況を嫌でも直視しなきゃいけないんだ。



きっと殺されるんだろうな、そう思うと今まで出る気配なんてなかった涙が頬を伝う。




こんな時に限って全く関係もない思い出とかが走馬灯のように色々よみがえってくる。






せめてこの涙だけは見せたくなくて少しでも離れようと一歩後ろに静かに後退りする。


するとさっき感じた得体のしれない何かの中に、今度は右半身全部がすっぽりと入ってしまった。



体の右側だけがほわほわしていて何だか温かい。


なんだか懐かしいような気分になって今度はこっちで泣けてくる。



なんでこんな時に限ってこの涙腺は弱くなるんだか。
こんなじぶんに苛立ちすら覚える。





男の中のリーダーのような存在のがじゃあヤろうぜと軽々しく開始命令を出した。



こんな状況でさえも



あの男―颯也


もう愛なんてものはなくそこには義務しかない彼氏にやっぱり頼ろうとしない私は変なのかもしれない。


涙はもう乾いていた、まるで私の心のように。