「はぁっ・・・・はっ・・・はぁっ」
辺りは静寂そのもので聞こえるのは自分の息の音、足音、鴉の声。
それからさっきから以上に高ぶる心臓の音、それから汚いねっとりとしたあの声。
一体私は何から逃げてるの?
「ね~いい加減観念してよ~。
逃げたって意味ないからさー、早く俺と一緒に気持ち良くなることしよーよー。
俺さ、君の彼氏様からちゃんと許可得てやってるんだからさ~」
甘ったるく身の毛がよだつような言葉を投げかけるどうみてもガラの悪い男達を尻目にそれでも逃げる。
逃げてる理由なんて、こいつがどういう輩かなんて本当は分かっている。
こいつはあいつの手下でただゲームをしているだけだ。
そして今回の目標は私を犯すことだろう。あいつにも、こいつらにも私はただのおもちゃでしかない。
いつからこんなことになってしまったのか、あいつ―彼は変わってしまったのか。
でも目を背けたいから、理解なんてしたくないから。
全身から吹き出す冷や汗を無視して、さっきからがくがくする足に鞭を打って走る。
「女の子の君が男の俺に勝てるわけなんかないんだからさーいい加減観念しろや。
優しく言ってもらえるうちが華だってまだわかんねぇのか?」
男の声が一気に低くなって追いつめてくる。
ただ怖い、それしかない。
でも逃げなきゃいけない。夕闇の道をカツカツとローファーでコンクリートを蹴る音が響く。
日暮れのオレンジ色の空に唸るように鳴く鴉の声が不気味さを増す。
さっきからこの鴉、私の行く道の一歩前に必ずいて私を見ているんじゃないかという被害妄想な感覚に陥ってしまう。
「おい!俺の声が聞こえなぇのかよ!!
逃げんじゃねぇよこのクソ女!」
カン!
と一番聞きたくなかった甲高い鉄パイプで地面を叩く音が響く。
逃げなきゃ本当に犯されるなんかじゃすまない、これじゃ死ぬ。
助けを求めようともこんな時に限って人一人もいない。
怖い・・・、怖いよ。助けて?
そんなときに一歩前にいた鴉が勢いよく声をあげて羽ばたいた。
黒々とした羽根が私の前を導くように飛んでいく。
私の視点ほどの高さを飛ぶ鴉にとにかくついていく。
「はぁっ・・・・はぁっ」