「大丈夫だって。私そんなに弱くないから」
誰も聞くはずのない、独り言を呟き、手を動かし始めた。
総体まであと1ヶ月。
きっと厳しくなるであろう先生の稽古。
しっかり先輩達を支えなきゃ。
後輩として、マネージャーとして。
「鍵閉めますよー!」
部活終了後、急いで制服に着替えた私は、道場の玄関に立って、まだ中に残っている人に向かって叫ぶ。
今日から剣道場の開閉は、私がすることになった。
剣道場の鍵のひとつを任されたのだ。
「待って〜美里〜っ」
あたふたと慌てながら出てきたのは朱里だった。
胴着を乱暴に押し込んだらしく、バッグがパンパンになっていて、胸元の赤いリボンは傾いていた。
余程、急いだようだ。