自然とみんなの視線が集まる中、彼はしっかりと答える。


「最初から俺たちが座ってた席順だと、荒川の席がないんだ。みんな紙を見ながら席に着いてたから。で、荒川の席を作るためにみんなに移動してもらってるんだ」



一同、ふーんと頷いている。
今日色んな人がこの事を説明しているけど、私は爽くんの説明が一番わかりやすいと思った。


頭、きっと良いんだろうな……。


彼はさらに続ける。



「みんなは一つずつ動けばいいだけだから、俺以外は最初に座った席の一つ後ろの席に座ればいい」


「なるほど……」


「そっか……」



様々な呟きを漏らしながら、みんなはそれぞれ新しい席に着いた。


こうして、彼はたった一人で混乱を鎮め、さらに誘導までしてしまった。


みんながおちついたのを見届けると、彼もまた、静かに自分の席に着いた。


お礼……言った方が、いいんだよね……?


でも、さっきから会話になってない会話をしただけだから、どうやって話しかければ良いのかわかんないよ……。



「あ、あのー……?」


「……何?」


「あ、ありがとう……」


「……何が?」


「え?」



本気でわからないと言うようにキョトンと言われ、私はかなり戸惑う。


このタイミングで言う「ありがとう」の理由は一つしかないのに……。