「あと。」

「…まだ何かあるのか。はよう額をこちらに向けんか。」

「…消さなくていい。」

「は?」

女の人がキョトンとしながら俺を見てきた。

「…記憶、消さなくていい。」

「…何故だ?」

「…ケガを直してくれた人の顔忘れたい…って、失礼な気がするから。」

「そうか。」

女の人はふふっと笑った。

「お主、名は何という?」

「悠。佐伯悠。」

「さえき…ゆう…か。ふむ。覚えておこう。」

「…あんたは?」

「…あ…あんた!?そなたわらわをあんた呼ばわりするか!?この無礼者!!!!」

「…いいから。名前は?」

「……そなたの様な無礼者には教えてやらんわ!」

女の人はぷい、とそっぽを向いた。

「そう。残念。じゃあ、傷、直してくれてありがとう。…この事誰にも言わないから安心しなよ。…じゃあ、さよなら。」

俺がそう言って立ち上がって歩き出すと、女の人は焦ったように、待て、と俺を引き止めた。

「…わらわの名は…蒼じゃ。」

少しばつが悪そうに女の人は小さな声で言った。

「アオイ…?ふーん、アオイか。…いい名前だね。」