「……っ、…んっ…」
と璃子は聞いた事のない声を漏らす自分に
戸惑い、三浦南朋の胸板へ手を当て引き離そうとするが
「もっと聞かせて」
とだけ言い、璃子の耳を甘噛みしたり
耳の輪郭に沿って舌を這わせてくる
思わず“ひゃっ……”
と声を出すとまた唇を重ねてきた
しかし今度のキスは一瞬で離れ
愛しそうな目を璃子へ向ける
そして璃子の首元に顔を埋めてきて
一瞬、チクッと痛みを感じる
そしてチクッとした所に優しくキスを落とす
すると三浦南朋は顔を離し
状況が飲み込めず涙目になっている璃子に
自嘲気味に笑い
「…ごめんな。今までの忘れていいから」
とだけ言い、璃子の横を通り理科準備室を出ていってしまった
残された璃子は扉が閉まり、少し経ってから
つーっと頬に涙が落ちた
あのふわふわとしている髪も
笑うとくしゃっとなる目も
優しく抱き締める大きな手も
少し不機嫌そうな口調も
全部、全部……
璃子は嫌じゃなかったのだ
本当は最初から気付いていない振りをしていただけだったのかもしれない……
素っ気ない態度を取る三浦南朋をつい、目で追っていたことにーーー
時折、璃子に向ける真剣な眼差しにーーー
忘れられるわけない、だって…
「これが、私の初恋だったんだから……」
と呟き、しゃがみこんで大泣きした
璃子にとって三浦南朋の“忘れて”という一言は
一番辛いものであった
遊びでも良い、なんてさっき一瞬でも思い
気持ちを伝えようとして罰があたったのか…
「あーあ…好きになったのに…
…っなかった事にされちゃった………」
と璃子は涙を流しながら笑い
ーーーいつの間にか暗くなり雨が降っている空を見上げた
ーーー39.5℃
体温計に表示されるその数字に自分でも呆れる
“何で梅雨の時期に傘を持ってかないんだ……”
昨日、璃子は散々泣いた後
傘を忘れた為、雨の中歩く、という映画のヒロインさながらの事をしたのだ
“しかも失恋後……”
なんてグッド、いやバッドタイミングなんだ
ふっ、と鼻で笑った時
起こしに来たお母さんに熱がある事を伝え、
学校を休んだ
それから2日後、やっと熱が下がり
学校へ行くと恭子からの熱いハグを受ける
その後はノートを写したり、あと2週間後にある期末テストの範囲を聞きに行ったり
バタバタしていた
いや、なるべく三浦南朋を視界に入れないように忙しいふりをしていただけだが…
そんな風に過ごし、少しでも三浦南朋の事を
考えないで済むように今までにないくらいに
テストに力を入れる
ふぁ~っと時折欠伸をする璃子を
恭子は呆れたように見つめていた
「で、どうしたのよ?
……その気合いの入れようは?」
お昼休みに璃子の目の下の隈を指差しながら聞いてくる恭子に
「いや~!そろそろやるか!
と改心いたしまして……いぇい!」
親指を立てぺ○ちゃんさながらの顔をする璃子に盛大に溜め息を漏らす
そして思い出した様に次の話題をふる
「あっ…そういえばノムから聞いたんだけど
三浦くんね……」
“三浦くん”
その言葉に思わず反応し、ガタッと音を立て
思わず椅子から立ち上がってしまった
璃子……?と問いかける恭子に
ちょっとお手洗いに~、とヘラっと笑い
教室を出て適当に歩く
そして図書室の前を通ると
女の子たちの話し声が聞こえ、その途中に
またもや“三浦くん”という単語が聞こえ
この男、どれだけ話題があるんだ
と呆れたが、立ち止まってつい盗み聞きをしてしまう
“なんかさー、三浦くん最近不調らしーよ?”
“あ、部活っしょ?なんかー、大会メンバーから外されちゃうらしいしー”
もう試合見に行く価値ないよねーと、笑う女の子たち
“それにね、3組のなんと!あの、美咲の告白も断ったらしいよー?”
“まじか?!”
“なんかー、いつも告白は
「好きな人がいる」って断るらしいよー?”
えー?本当ー?と盛り上がる女の子たちに対し
次から次へと変わる話題に付いていけなかったが、最後の言葉には璃子をはまだ胸がズキッとする
好きな人、いたんだ……
璃子はキュッと下唇を噛みしめ教室へと戻った
それから2週間後、無事テストが終わり
夏休みまであと1週間を切った
璃子は気にしないようにしているのだが
最近の三浦南朋に元気がない事がわかった
時折ちらっと見ると友達と話していてもどこか上の空だし
それに、ふとした瞬間悩んでいるような表情なのだ
かと言って
何をするわけにもいかないわけだが……
そんな事を考えてながら放課後、
恭子の用事が終わるのを教室で1人、待っていると
ーーーガラッ
入ってきたのは袴姿のノムで
少し息が切れたまま、璃子を見る
「……?どうした?」
と問いかけると、突然ノムが座っていた璃子の手を引き廊下へと歩き出す
“ちょちょっ……何事すか?!”
と訳のわからない璃子にノムはもっと訳のわからない事を言ってくる
「弓道はさ、その人の精神状態に比例すんだよ。だからそれが楽しくもあり、難しくもあるんだ」
ん?、となる璃子にノムは構わずに続ける