私、恋愛初心者なんですが。



その瞬間バッとベッドの上に立ち上がり
璃子の首辺りにある淳平の胸ぐらを掴み


「ハアアァ?!赤くないしっ!!!
全っ然赤くないし!!!むしろ寒いし!!」

と赤いままの顔で璃子は淳平に詰め寄る


そんな璃子に少しフラつくが

いや、赤いんだけど……淳平は続ける


すると璃子が眉間にシワを寄せ大きく口を開け何かを言おうとしたので


「…あ!やっぱ俺の勘違い、勘違いっす!」

おやすみー、と言いそそくさと部屋を出ていく


そこで引くのは何故なら淳平はケンカで璃子に勝った試しがないからである……







淳平が部屋を出ていき、“はぁー”
とそのままベッドに仰向けに倒れこむ


刹那、再び先程の恐ろしい考えが浮かび上がるが両手を頬に当て激しく首を左右に降る

そこで璃子も今の自分の顔が赤いのが
頬の持っている熱で気付いた


ピタッと動きを止め、思考停止情態になる

コロッと体を横へ向け壁に飾ってある1枚の写真が目に入った


「……やっちゃん元気かなー」

恭子との昼間の会話を思い出して呟く






ーーー“やっちゃん”は璃子が小学4年生で
淳平が3年生の頃に近所の公園でよく遊んでいた子で、小学校は違ったが仲は良かった記憶がある

かくれんぼをしたり、水遊びをしたり……


しかし、やっちゃんは夏休みが終わる頃に遠くに引っ越してしまったのだ

出会ったのは冬休みだったので遊んでいたのは約半年間だけだった


そういえば最後お別れの時にやっちゃんが

“また絶対会いに来るからねっ!
りーちゃんその時は……”


璃子は、その続きがいまいち思い出せず
うーん……と悩むがやっぱり思い出せず

こりゃ、もう思い出せないなと思ったので



「……寝よ」

そう呟き、眠りについた



次の日はめずらしく目覚まし時計が鳴る前に
パチッと目が覚めた


“昨日も夕方雨降ってたし、そろそろ梅雨か~”

なんて憂鬱な事を思いながら、のそのそと支度をする


その結果、やっぱり遅刻しそうになったので
淳平に送ってもらった



「いやー、いっつも悪いねぇ。全く。
ありがとね!遅刻しないよーに!」

と、淳平の背中をパシッと叩きながら言う


「……わかってんなら電車で行けよ。」

と言いながら横目で睨み
淳平は急いで自分の学校へと向かっていく……が、突然くるりと振り返り


「……あのさ、なんかあったら俺に言えよな」

と少し目線を璃子から外し、モゴモゴと
照れ臭そうに言う淳平に自然と笑みがこぼれる


“了解!”と元気よく答え、手を振る璃子を見て
そそくさと前を向き自転車を漕いでいった

そうなのだ
実際、淳平は昨日帰ってきてから璃子の様子が
いつもと違う事に気が付いていた


“心配してくれてるんだ……”

我ながら良い弟だ、ふふっと笑いながら少し離れている学校へ向かうと

校門に寄りかかって腕を組み
困ったような笑みを浮かべてこちらを見ている
三浦南朋の姿があった



目が合った瞬間、ビリビリっと体が動かなくなり璃子は立ち止まる


すると三浦南朋が腕をほどき、近づいてきて

「…はよ。あのさ……」

と話しかけるので璃子は条件反射で
パッと三浦南朋からあからさまに目を反らす

そんな璃子の態度に三浦南朋は少し下唇を噛む


「「…………」」

登校中なので周りはガヤガヤしているのに
2人の間には少しの沈黙が流れる


その沈黙に耐えられない!と思い、


「ほ、ほら遅刻しちゃうよ?」

と言い、三浦南朋の横を通ろうとすると



パシッと手首を掴まれ

「……今まで悪かった」


璃子を見て謝罪の言葉を口にし

すっと先に校舎へと向かう三浦南朋の後ろ姿を見て璃子は昨夜と同じように胸の中が疼いた





何だかその言葉は
もうこれからは関わらない、という風に聞こえた

しかし

“…あぁ、やっぱり今までからかわれてたのか”

と璃子は解釈し、何だか悩んでいた自分が
ひどく情けなく思えた


そして教室へ向かい、とても笑顔なんて出来る心情ではないが心配をかけたくないので
みんなに無理に笑いかけ挨拶をする


そんな璃子の笑顔を見て恭子は

「おはよう。大丈夫?昨日は……」

心配そうに問いかけるが


「おはよ!何が?全然大丈夫だよー。
それより淳平がねー……」

と、昨日の話には触れずに偽物の笑顔で話し出す璃子にそれ以上、恭子は何も言えなかった









何とか笑顔で1日を終え、放課後に
日直の仕事で理科準備室へ資料を置きに行く


恭子はバイトがあるため、先に帰ったが
今日1日頻りに心配そうな目を璃子に向けていた

璃子もそれには気付いてはいたのだが
三浦南朋との事は恭子には話していなかったし何となく話す気にもなれなかった


それにしても、この日直の仕事は
璃子にとって酷く憂鬱なものであった

なぜなら理科準備室には弓道部の練習場の前の外の渡り廊下を通らなければ、行けない造りになっているからだ

璃子はこの学校の設計者を恨んだが
HRが終わってすぐに資料を持って教室を出たのでまだ練習は始まっていないはずだ、と早足で向かう






でも何となく渡り廊下を歩く時に
資料を持つ手に力が入る


その時シュパッと矢を放つ音が聞こえ
まだ誰もいないと思っていた璃子は体をビクッとさせた

“へぇー。こんなHR後すぐになんて……
練習熱心な人もいるもんだなぁー。

とついヒョコッと覗いてみると

それは上が白で下が黒の袴を着て弓を持ち
的を悔しそうに見つめる三浦南朋の姿だった





それを見た瞬間、
璃子は手に持っていた資料をバサッと下へ落とした


慌ててしゃがみこみ、紙を拾っていると
目の前に影ができる

顔を上げると三浦南朋が

持つ、とだけ言い、拾い上げた全ての資料を璃子の手から奪った

「どこまで?」


「っありがと。でも大丈夫だから……」

と言い、三浦南朋に手を差し出すが渡す気がないらしく

“職員室?”と再度尋ねてくるので


「……理科準備室。」

とだけ答え、歩き出す三浦南朋に慌てて付いていく