私の好きなもの……
学校から帰ってきてからの再放送ドラマ
昼休みの友達とのおしゃべり
ショッピングモールのセール
春休み
ゴールデンウィーク
夏休み
冬休み……
etc...
どこにでもいるような高校2年生
友達とは仲よし、家族との仲も良好。
特に不自由はしていないーーー
だが、浮かれた話は何一つない。
周りには彼氏がいる子もいるし、
今日は一緒に帰れない~と言う子もいるし、
昨日ね、彼氏がね~と話してくる子もいる。
ーーーまぁ、
そんな子もいれば私みたいな子もいるわけで
焦りも羨ましくも感じていなかったのだが……
「……おはよーございまーす」
そんな気の抜ける挨拶をした
私に返ってきたのは
「さっさと顔洗って朝ごはん!」
「姉貴はまた遅刻すんだな」
「今日も璃子はかわいいなあ~」
世のいかにも母、生意気な弟、溺愛してくる父
ーーーそれが私の家族
余計な事を抜かす弟に鉄拳をくらわせつつ、
朝食のトーストに手を伸ばす
「っっつ!何すんだよ!!」
隣で弟が騒いでいるが無視し
トーストを牛乳で流し込みながら
TVを見つつ一気に朝食を終える。
そんな日常を送っている私、
水沢璃子(みずさわりこ)がいつもの日常に
とんでもない爆弾が降ってくるとは
露知らない、月曜日の朝ーーー
「おい、弟よ」
玄関に座りスニーカーの紐を結びつつ
むすっとした顔でこちらを振り返る
弟の水沢淳平(みずさわじゅんぺい)
「んだよ、今日もか?」
その問いかけに
「うん!よろしくお願い致します、淳平様!」
と満面の笑みで答える
そんな答えに淳平はさして嫌そうな顔をせず
呆れたような目を向け
すぐに足元のスニーカーに目線を落とした
私と淳平は年子で
淳平は隣の某有名男子校に通っている
ローファーを履き、座っている淳平の顔を見る
淳平はバスケ部に所属していて
学校も自転車で行ける距離のため
高校生のくせにジャージで登校している
相変わらず整った顔をしてんなあ、
と溜め息まじりに淳平の顔を見つめる
最近染めたさらっとした茶色の髪
くっきりとした愛らしい二重の目
白い肌、高い鼻、形の良い唇
恐らく180はある身長……
ばこっ
「いって!何すんだよ姉貴っ!」
持っていた鞄で淳平の頭をはたく
淳平は一瞬ちらっとこちらを睨むと
また足元のスニーカーに目線を落とした
“こいつは高校生にもなって
靴ひもを結ぶのに一体何分かけるんだ”
と呆れつつしゃがみこみ、結んであげる
私が靴ひもを掴むと淳平は驚いたような顔をし
「っっ!おい!」
と少し恥ずかしそうな顔で言っているが
お構い無しに右、左とリボン結びをして
「はい、出来た!
お母さんお父さん行ってきまーす」
と言い淳平を立ち上がらせ玄関を出た
我が家は一軒家でガレージに自転車が一台ある
淳平が自転車を出している間、
私はポストの前で待っている
「あら~!璃子ちゃんおはよう」
と隣のおばさんが声をかけてきたので
挨拶を返すと
「今日も淳平くんと一緒?仲良しね~」
なんていつもと同じ事を言う
そこに自転車を取り出した淳平が
「こいつ未だに迎えに来てくれる彼氏の1人も出来ないんすよ~」
早く弟離れしてほしいとか
ぶつぶつ言っている
おばさんは何やら含み笑いをして
「あらあら?良いのかしら~?
あら!もう時間ないわよ、行ってらっしゃい」
腕時計を見ると07:55
……淳平と顔を合わせ急いで自転車に乗る
「お、おばさん!行ってきます」
と焦りながら言い学校へと漕ぎだす
「おい、姉貴のせいだぞ?!」
淳平の背中によりかかりお腹に腕を回し
あ~、今日からまた学校かぁ……
と思いながら目を瞑ったーーー
学校の校門に着き、
急いで自分の高校に向かう淳平に
「頑張って~!男子校生よ~!」
なんてふざけて言っていると
「璃子はまた淳平くんをパシりにしちゃって」
と親友の神田恭子(かんだきょうこ)が
私の肩に腕をかけながら言った
「お、恭子!おはよっ!」
と言い、恭子を見る
茶髪のパーマのボブがすごく似合っている
顔は可愛いのに意外に毒舌な所が私と合うのだと思う
私の性格は良いとよく言われるのだが
恭子曰く、
璃子は明るく元気なだけ
らしい……
「でも淳平くんは今日かっこいいねえ」
私の顔を見て言った
今日の朝から姉弟なのに……
と自分でも僻んでいたのでその言葉には答えず
「恭子!ほら教室行きましょー」
と恭子の肩を後ろから押して
今日も時間に間に合うように送ってくれた
淳平に感謝しつつ、教室へと向かった
教室に着き、席に座る
前の席は恭子
私は窓際の一番後ろの席
くじを引いた時は嬉しかった
まだまだ4月の中旬のため、
教室の窓から桜が舞っているのが見えるのだ
窓の外を見ながら
はぁ、と溜め息を吐いた
「どうした?溜め息4回目よ?」
と恭子に言われ、我にかえる
じそしてっと恭子の顔を見つめる
「はぁ……」
はい、5回目~
とまた溜め息を吐いた私に言う
「璃子の考えてる事、当ててあげる!
“いつもと同じ日常……別に良いんだけど、何かなぁ……”」
でしょ?
と、少し顔を傾けながら意地悪な笑顔を向ける
「なんでわかるの?!エスパー神田?!」
何言ってんのよ、
と机に身を乗り出している私の額にデコピンを喰らわせる
「璃子はさぁ、彼氏作らないの?
それが問題なんじゃないのー?」
と椅子に横座りして足をパタパタしている恭子に対し、無言の睨みを剥ける
そんな私に恭子は目を細めこちらを見つめる
強いていえば~
「こう、男の匂いが感じられないから
フェロモンがないのよ」
と、しれっとした顔で言った
フェ……?!フェロモンだって?!
驚く私に恭子は続ける
「だってさぁ、顔は淳平くんと似て可愛いのよ?
でも17年間彼氏なし、むしろ今も現在進行で欲しいとも思っていない!
しかもこないだ“私は結婚さえ出来れば良いや~”なんて言い出したでしょ?!」
と、今度は恭子が机に身を乗り出し
一気に捲し立てられた
「……はい」
あまりの恭子の熱弁に
胸の前で椅子を後ろに下げ両手を挙げ答える
だからね……!
と、子が続けようとした時に
「は~い、席着いて~」
今年で退職を迎えるじいちゃん先生の
岡田先生が入ってきて
恭子は何か言いたそうな顔をしながら
前に椅子を向けHRが始まった