夕食はやっぱり全部は食べられなくて、半分だけ無理して食べて、後は残してしまった。



こっそり部屋の扉を開け、トレイを床に置いたら、秦野君が階段を昇ってくるのに出会した。





……どうしよう。なんか気まずい。



顔を伏せて、気づかないふりをして秦野君を遣り過ごそうとした。


けれどもこの階段は、突き当たりが私の部屋だから、無視する訳にもいかなくて。


「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。来生さんに、本を貸しに来ただけだから」


秦野君に、先手を打たれてしまった。


でも、本を貸してだなんて、頼んでないんだけど……?



「昼間話した太宰の『女生徒』。もしかしたら、来生さんが気に入るかもと思って」

「はぁ……」


わざわざ貸しに来てくれたから、秦野君の手からその文庫本を受け取った。