「大家さん夫妻には、本当に私もお世話になったんだよ。今日からは紗凪ちゃんがこの寮の経営者だけど、恩返しのつもりで私もしっかりサポートさせて貰うからね!」


私の目の前に立つ恰幅の良いオバチャンは、加賀優子(かが ゆうこ)さん。


50代後半の、人当たりが良い優しい人だ。だから父母は昔から、安心して優子さんにこの寮の全ての運営を任せていた。


「でも紗凪ちゃん、よくこの寮で生活しようと決心したね。男の子ばっかりだから、寮生達は喜ぶと思うけど……」


「……あの家にいると、お父さんとお母さんの事を思いだしちゃって。あんまり塞ぎこんでたから、友達に心配されたんです。環境を変えたら?って……」

「……そうだよね。一人は、辛いよね……」


そう言って涙ぐんでくれる優子さんは、やっぱり優しい人だと思う。


「さ、ここが紗凪ちゃんの部屋だよ。寮生達の部屋とは別棟になるから、安心していいよ。紗凪ちゃんが夜這いなんかかけられたら大変だもの」

「はは。安心も何も、私のこのスタイルじゃ何も起きないよ」


そう。私はあくまで地味で良いのだ。この寮に入るからには、あからさまに自分を飾ったり磨いたりはしないと決めた。


寧ろ逆に目立たないよう気を配っていたりする。