下を向いて溢した液体を拭く振りをしながら、二人の会話に耳を澄ませた。


「……やっぱり、この髪……」


気がつくと、私の目の前には男物の靴があって。



顔を上げて頭上を見てみれば、紫野さんが私を覗き見ていた。




「紗凪ちゃん、でしょ?新しい大家さんの」

「……人違いです……」

「ほら、やっぱりこの声、紗凪ちゃんだ」






……紫野さん、何で分かった!?





「ああ?誰だそれ?」


充さんが果てしなく低く怖い声音で私を睨み付けた。


「昨日食堂で紹介されたじゃん。今朝も会ったよね?」

「私は空気です私は空気です私は空気です私は……」

「おい聞いてんのか!?」



充さんの怒声に、思わず体がびくついた。



「……私、紗凪って人じゃありません。人違いです」


一さんや充さんにはバレなかったのに、なんで紫野さんにはバレたんだろう?

でも最後までシラは切り通すつもりだけど。