後ろで束ねた髪をほどき、化粧直し用の鏡台の前に座ったら、化粧ポーチを取り出して薄くメイクを施していく。



そこにはあの寮にいたダサダサの私じゃない私がいる。




お母さんが好きだと言ってくれた目も、お父さんに似ていると言われた鼻も隠さない私の顔が。



暫くは、自分の顔でさえ鏡で見ることが出来なかった。


だって鏡を覗き込んだら、そこにある自分の顔を通してお父さんとお母さんに見られているような気がするから。



でも今は、あの寮で自分の個性を殺す事で、こうして外で自分の顔を晒す勇気や解放感もようやく少しだけは出てきた。



もっとも、私があの寮で没個性に躍起になるのは不純な動機があるんだけど。



「まずは……と」


親友の笹塚奈乃(ささづか なの)との待ち合わせ場所、コーヒーショップの前に向かった。


奈乃は既に店の前で待っていて、着替えに時間をとってしまった自分を軽く呪った。



「ごめ!待った?」

「いーや、大して?つーか、あの金髪碧眼の外人さんガン見してたから、むしろもっと遅くても良かった」


「……おい私も呼べよ」



奈乃とは小学校からの付き合いで、私がエスカレーター式の蘭華学園に入って以来ずっと行動を共にしている。


そして私を腐女子の道に引き入れたのも、紛う事なくこの親友だった。




故に、彼女も腐女子。


身長が152センチほどの小柄な彼女には、《ロリ系》という言葉がしっくり来るかも知れない。

今日の服装だって、可愛い目お嬢様といった感じだし。


だからと言って、無駄に嘘臭い喋り方はしない。

反対に、たまに男気溢れる気性を見せちゃうもんだから、ギャップ萌えに少々苦労している。