朝6時半。
いつものようにキッチンで朝食の支度をしていると、光俊がリビングに入る気配がした。
真彩が後ろを振り向くと、濃紺のスエット姿の光俊が青白い顔をして新聞を片手に立っていた。
「おはよう…」
真彩が俯き加減で挨拶をしても、光俊は何も答えなかった。
…光俊は怒っている。
静かで強くてやり場のない怒り。
当然だ。
夫を疑心暗鬼にしてしまったのは、自分のせいなのに、真彩は怖くて弁解することが出来なかった。
逢った事は事実だ。
何かあるとか、ないとかじゃない。
世間からしてみれば、病気の子供がいたとはいえ、夜、昔の恋人に逢い、車に乗ったことがもう既に人妻である真彩のすることではない。
元恋人を呼ばなくても、他に選択肢はあったはずだ。