秋風が気持ちのよい夜だった。


運転をする司は、ペリエだったけれど、夕飯のイタリアンの時、真彩はグラスワインを司に勧められて赤を1杯だけ飲んだから、ほろ酔い気分だった。


ーーあんまり釣れてなかったね。
ごめん、真彩。付き合わせちゃって。


夜道を20分ほども歩いたのに、期待外れな結果だった。


ーー散歩にちょうどいいよ。お腹一杯だったから、いい運動になったよ。


歩きながら、海風に肩までの髪とダークブラウンのフレアスカートをなびかせ、真彩は明るい笑顔をみせた。



生け垣に囲まれた遊歩道の休憩スペースに差し掛かった時。

司はいきなり、グイッと力強く真彩の手を引いた。


真彩はきゃっ!と小さな悲鳴をあげた。


ついさっき横を通り過ぎたばかりの、雑草が生い茂るひと気のないベンチしかない休憩所。


半分、引き摺られるみたいにして、司と一緒に入っていく。


司は、持っていたイルカの入ったビニール袋を半ば、放り投げるように地面に置いた。


誰もいない木々と背の高い雑草に囲まれたそこは、暗いけれど、外の世界から遮断された意外に居心地のよい空間だった。