(こんな焦った気持ちで運転して、事故を起こしたらどうしよう…)


免許を取ったばかりの19歳の時、軽い物損事故を起こしてしまったことがあった。

相手はくたびれた営業車で、運転手も穏やかな中年男性だったから、揉めたりせずにすぐに示談になったけれど、警官に事情を聞かれたりして大変だった。


駆け付けた中年の男性警官があからさまに好色な目をして、『僕の顔に息を吹きかけて』と言い、やらざるを得なかった事も嫌な思い出だ。

もう、あんな思いは絶対ごめんだ。


(大丈夫…落ち着いて運転すれば…)


緊急事態だ。
理亜の為に頑張るしかない。


ママバッグを肩にかけ、自分を鼓舞しながら震える手で車のキーを握りしめる。


「理亜っち…行くよ」


真彩が理亜を抱き上げようとした
その時。


真彩のスマホがメロディを奏で始めた。

メールではなく、電話の着信だった。



「…もしもし?俺。理亜、どう?」


真彩の耳に聞こえてきたのは、司の声だった。