「…そう」
10月まであと4ヶ月もない。
あまりにも急な話で真彩は、なんと答えてよいか分からなかった。
真彩は黙り込み、二人の間に気まずい沈黙が流れた。
さっきまで、このベッドの上で、ジャージ姿の光俊が、真彩を愛撫しながらセーラー服を脱がせる遊びをしていたのに。
「…これは業務命令だから」
光俊がつぶやいた。
真彩は黙り込んだまま、天井に取り付けられた丸いシーリングライトを見つめる。
分かっている。
承知の上だった。
光俊と結婚すれば、転勤は避けられないことを。
その時が来たら、夫に付いていくつもりだった。
でも、今は決心出来なかった。
真彩は沈黙した。
初めての育児は、真彩の想像以上の大変さで、常に忍耐と体力を必要とした。
頑張って来れたのは、良き協力者である光俊の存在が一番大きいけれど、身近に両親がいてくれて、親友の優美子や司が心の支えになってくれたからだ。
もちろん、ママ友の麻也君ママみたいに生まれ故郷を離れて子育てをしている人もいる。
でも、彼女の場合は、旦那の両親が近くに住んでいて、多少の不満はあるものの、何かと世話になっているみたいだった。