狭い軽自動車の車内。
右腕をアームレストに乗せるくせがある真彩は、たびたび司の左腕に触れてしまう。
意識して、肘を乗せないようにするが、少しするとついまた乗せてしまう。
「気にしないで、腕乗せなよ」
司がいってくれた。
「ありがとう……ねえ、覚えてる?
私が昔、赤いミラ持ってたの」
「ああ。覚えてるよ。
ミラ子ちゃんだろ?」
少し真彩の方を向いて、司が口元をキュッと引き上げた。
「そうそう、可哀想なミラ子ちゃん〜
もう〜貴文が余計なことしてくれちゃってさあ!」
真彩は歌うように言った。
ミラ子は、真彩が25歳の時、初めて持った念願の愛車だった。
司が就職して1年が過ぎた頃で、電車か司のバイクが移動手段だった2人には、画期的な日常の変化となった。
(しばらく、休みごとに辺鄙な場所にあるラブホテル巡りしたっけ…)
真彩は暗くなってきた海の景色を見ながら思い出す。
司がネットで場所とサービスを調べ、交代でミラを運転した。
温泉があるとか、サウナ付きという宣伝文句に2人とも弱かった。
ホテル代金も交互に出し合った。
ちょっとした旅行気分だった。