「お待たせ!」


真彩が乗り込み、シートベルトを着けると、司は早速アクセルを踏み、車を発進させた。


まだ実のないみかん畑を眺めながら、まさか、今日突然にこんなことになるなんて……と改めて驚く。



「どこに行く?何食いたい?」


司が前を向いたまま、訊いた。



「うーん…そうだなあ…
正直行って、あまりお腹空いてないの。ブッフェだからやっぱ食べ過ぎちゃって。お腹パンパン。

あ、でも、麺類とかなら食べれるかなあ」



「マジ?ならしばらくドライブしようか。で、適当に入る店決めよう。
何時まで大丈夫?」


「うん。終電に乗れればいいよ。
さっき、光俊にメールしたら、遅くなったら藤沢駅まで迎えにきてくれるって」


こんな時に夫の名前なんか口にしたくなかったけれど、仕方ない。


指輪と同様、夫の存在も羽野真彩の一部なのだから。


夜の海岸道路をドライブするなんて、本当に久しぶりだった。


しかも、このルートは思い出がたくさんある。



独身時代、藤沢から熱海へと続くこの海岸線を真彩は彼氏や友達とよく深夜ドライブした。



真彩の記憶は、昔の自由な時代をたどっていく。