夜泣きしていた理亜がやっと寝てくれた直後で、真彩は理亜のよだれと母乳でベトベトになった乳房や腹を洗おうと、
風呂場に向かっていた時だった。
「雨降ってるなら、コンビニで傘買うか、タクシーで帰ってくればいいじゃない….」
イラつく心を抑えながら、真彩が答えると、光俊は電話口で言った。
『タクシー乗り場に、10人くらい並んでるし。金もったいねえし。
それに理亜、寝たならお前暇じゃん』
ーー暇じゃんって…
真彩はキレた。
「私、行かないから!
ちょっとの間でも、生後三ヶ月の赤ん坊残して出掛けられない。
何があるかわからないもん。
光俊は大人でしょ。
タクシーなんて待てばいいじゃない。
すぐ来るって!
大荷物持ってるわけでもないのに」
早口で言って、光俊の返事も聞かずに電話を切った。
1時間後に帰ってきた光俊は、ただいまも言わずに家の中に入ってきた。
「おかえり…」
出迎えた真彩を、鋭い目付きで睨みつけた。
ーーやばい、すごく怒ってる…
真彩はどきりとする。
「あー!すっげえ疲れた!
タクシー全然来なくて50分待ちだった!
すっげえ寒かった!」
光俊は怒気を含んだ声で言うと、ブリーフケースを乱暴にソファの上に叩きつけた。