クールで思慮深い優美子は、口ではエッチなことなど滅多に口にしないのに、メールでは人を楽しませようとサービス精神を全開する。



「ふうん、ワセリンかあ…」


真彩は早速、光俊にメールを送る。


[会社の帰りにワセリンを買ってきて下さい。]


大雨の木曜日。
午前中に宅配の生協が来たから、食材はたくさんある。

赤ん坊連れで、わざわざそんな物を買うために出掛けたくなかった。


返信はすぐに来た。


[わかりました。本当にごめんなさい。
もう怒らないで。]





昨夜、事件が起きた。


光俊は、情報処理を請け負う会社のシステムエンジニアだ。


秋の異動で部署が変わり、名古屋にある大手自動車会社の担当になった。


それから、日帰り出張が増えた。


子供が生まれたばかりだからと上司が配慮してくれて、宿泊を伴う出張は免除してもらっていた。


出張先の名古屋での仕事が長引き、光俊が自宅最寄り駅に帰り着いたのは、夜中の11時頃だった。


しとしとと雨が降り、傘を持っていなかった光俊は、
『駅にいるから、車で迎えに来て』
などと真彩に電話してきたのだ。