真彩が知る限り、学生時代の司は、仕送りだけでは足らず、小遣い稼ぎにガソリンスタンドや夜間の警備など、様々なアルバイトをしていた。


「この家、嫌なんだよ。慰謝料代わりだから」


真彩の訝る様子に司は、気付いたのかもしれなかった。

暗闇の中、手探りのようにして玄関のドアに鍵を差し込みながら、司は真彩の顔を見ずに言った。



「…慰謝料って?」


真彩の問いかけに司は答えなかった。


ふと、真彩は気付く。


駅で会った時から車の中でも、司が自分と目を合いそうになると、ふっと視線を逸らしてしまうことに。



「パパア!お帰りなさい!」


リビングに入るなり、いきなりピンクのトレーナーにGパン姿のショートカットの愛らしい幼女が、勢い良く司に飛びついてきた。


真彩が初めて見る渚だ。


さすがの司も渚の体の重みで、くらりと身体が揺らぐ。


渚は、真彩が抱いた理亜を見つけると、赤ちゃんだー!かわいいー!と騒ぎ、ピョンピョン飛び跳ねて大はしゃぎした。