私鉄の各駅しか止まらない小さな駅。

初めて降りる駅だ。


駅前には、昔ながらの喫茶店とベーカリー。
チェーンのドラッグストア。
どこももうシャッターは閉まっている。


真彩がこじんまりとしたロータリーに降り立つと、見覚えのある黒いステップワゴンがタクシー乗り場の向こう側に停まっていた。


真彩が手を振ると、車のヘッドライトがパアッと灯り、こちらへ近付いてきた。


運転席から、ひと月前と同じ笑顔を見せる司。


髪が伸びるのがとても早い彼は、髪をウェービィな感じに後ろに撫でつけていた。


真彩もひと月前と同じように、「わざわざ、ありがとう」と言って助手席に乗り込んだ。


「ここからウチまでは15分くらいの距離だよ。渚は、家で待っている」


バックする為に、後ろの車を気にしながら、挨拶もなしに司は喋り出す。

まるで数時間しか離れていなかったみたいに。


「一人でお留守番出来るんだあ、偉いね」

司の方を向いて真彩が言う。


「うん、まあね」


前に向き直り、司は短く答えた。