急に理亜を連れて帰ってきた真彩に、母は驚いていたけれど、
「来るなら前もって連絡してよ〜そしたら、もっとご馳走作るのに」
と花柄のエプロン姿で朗らかに言った。
「ごめーん。近くまで、たまたま来たから寄ってみただけなの」
真彩は努めて明るい笑顔を作り、
「はいこれ。駅前の八百屋さんで買ったの」と桃が入ったビニール袋を差し出す。
パックに2つ並んだそれは、甘い芳香を放ち、丸々といかにも美味しそうだった。
おかげで真彩の財布は、さらに心細くなってしまったけれど。
家には、父も弟の貴文もおらず、夕飯を一人だけで摂るつもりだった母は、真彩を歓待してくれた。
「お父さん、今日は横浜に注文していた印鑑取りに行くって。
それから、ついでに本屋に寄るから、少し遅くなるって」
手早く茶碗や箸を食卓に並べながら、母は言った。
夕飯のおかずは、手作り挽き肉入りコロッケと鮭の塩麹焼きと、アボカドとトマトのマカロニサラダ。
娘が来るのを知っていたかのように、ちゃんと2人前、食卓に並んでいるのを見て、真彩は目を丸くした。