ーー何、やってんだよ…
どこに行くんだよ……
家を出る前、背後から聞こえてきた光俊の小さな声が耳に残っていた。
真彩は頭を振って、その声を振り切る。
確かに光俊は、憎しみを込めて自分をぶった……
いいようのない悲しみと怒りが、真彩の胸のうちからふつふつと湧いてくる。
32年間生きてきて、男にぶたれた記憶なんて一度だってない。
それなのに、誰よりも自分を大切にしてくれるはずの夫の光俊が、暴力を振るった。
自分のいう事をきかない妻を腕力でねじ伏せようとしたのだ。
司とのメールをみせれば、潔白を証明出来たのかも、疑問だ。
決していやらしいメールをしていたわけじゃない。
けれど、2人が交わしていたメールは、友達以上の内容で、かつて心も身体も許し合ったことがある同士のものだ。
却ってささくれ立った光俊の神経を逆撫でする結果になったかもしれない…
朝の出来事を思い出すと、涙が溢れそうになってしまう。