「……っ」

「また辛そうな顔してる」

「…秦っ…」

「皐といい感じになれたんじゃないのか?幸せになれたんじゃねぇのかよ」

「なれたよ。…一瞬幸せになれたよ。」

「一瞬?」

「だって今はもう居ないもん。あたしの側に居てくれてないもん」







皐は今別の女の子のところにいる。

…幸せは一瞬、苦しみはずっと。

あたしはまた…泣いてる。

心は雨降りで、晴れない。

皐に出会ったときはずっと晴れていたのに。

付き合った時だって、澄みきって曇りひとつなかったのに。

……いつからか、曇りがかって。

それが雨雲になって…厚い、厚い雨雲は去ってはくれない。








「皐は、…別の?」

「そ、うだよ…秦、またココア作ってくれる?」

「ひまりが笑顔になるなら何回でも作ってやる」

「……っうぅ…」







秦の真っ直ぐな優しい瞳が、

秦の真っ直ぐな偽りない笑顔が、

真っ直ぐな言葉が、あたしの心を解放する。

あたしの心ごと、抱き締めてくれる。

雨降りでずぶ濡れのあたしに傘をさしてくれる。

あたしが、あたしでいられる。

我慢も、偽りも、なにもしないでいれるの。







「…泣くな、大丈夫」

「…し、ん…」

「皐のことで、もう泣くなよ。」

「…うわぁん…っ…!」

「大丈夫だから。…俺が、いるから。」







あたしをギュッと抱き締めて、あたしの涙を拭って。

優しく語りかけて、優しく見つめて。

……全部、皐にしてもらいたかったんだよ。

皐の前じゃ、泣けないの。

ねぇ何で……皐は、あたしを傷つけるの?

あたしを、苦しめるの?