それから菜月は角砂糖を三つとミルクをたっぷり入れてコーヒーを満喫した。
シフォンケーキはフォークを当てるとふわっと切れる柔らかさで、口に入れるとほどよく舌の上でほどけていった。
横に添えられた生クリームとの相性も抜群で菜月は正に至福の時を過ごしていた。
その至福を更に後押しするものが近づく。
カフェの扉を、揺らして入ってきた男に中にいた女性客の視線が集まる。
容姿端麗、背筋もピンと張っていて、最近当てたパーマも似合っている。
男は店内を見回し、目的の女性が嬉しそうにシフォンケーキを頬張っているのを見つけて微笑んだ。
「お一人様ですか?」
先程菜月を案内した店員が男にそう聞く。
「いえ、先に入っているので」
「お席は分かりますか?」
「ええ」
にっこりと笑って男が菜月に近付いていく。
店内の女性客の視線はより熱く集中していく。
男はスタスタと菜月にあゆみより、そして菜月の目を後ろから手で隠した。
「ひさしぶり、だーれだ?」
手の温もり、少し鼻をくすぐる柔軟剤の香り、優しい声と口調。
菜月の心が弾み出す。
「想兄!」
ばっと笑顔で振り向いて菜月は想次郎を見る。
「正解。
待たせてゴメンな」
そう言って想次郎は菜月の頭を優しく撫でて、菜月の向かいのソファに座る。
「明日はお休みなんだよね。
どっか一緒に行ける?」
まるで恋人と話をする女の子の様に、まえのめりになりながら菜月は想次郎と向かい合う。
「……あー、明日はちょっと仕事が残っててさ。休みなんだけど出掛けるのは難しいんだよね」
「なんだぁ」
残念そうに俯いて菜月は不機嫌そうな素振りをした。
「ゴメンゴメン、まだ何か食べたいのある?好きなの注文しな」
そう言って想次郎は慣れた感じで、店員と目が合うと手をあげた。
それに気づいた店員がやってくる。
「ご注文お決まりでしょうか?」
「アイスコーヒーと」
想次郎は何か頼まないのかと言葉の途中で菜月を見た。
「あ、じゃあ苺パフェ」
「ん、じゃあそれください」
想次郎はメニューをたたむ。
「アイスコーヒーと苺パフェがお一つずつですね。少々お待ちください」