振り返ると香澄は、今にも泣きそうな顔をしてる。言い掛けた言葉を飲み込んで、震える唇を噛み締めて。


何かを堪えてる。何かを言い出そうとして、ためらっている。


聞き返す勇気はない。


香澄は何事もなかったように、前へと向き直る。歩くスピードは変わらない。


でも、本当にいいの?


このままじゃ、私たちは……


胸の奥で急成長した不安に、背中を押されたと感じたのは一瞬。


「香澄、聞いてくれる? 私、話さなきゃいけないことがあるの」


考えるより早く、疼いて止まない思いが言葉になって溢れ出す。


足を止めて、香澄の腕を掴んだ。


私を見つめる香澄の瞳が揺れて、細やかに輝いている。張り詰めていた糸が解けるように、固く噤んでいた口元が緩んでいく。