下車した私たちは改札口へ向かわず、ホームのベンチにバッグを下ろした。同じ高校の生徒たちが、私たちの前をぞろぞろと通り過ぎていく。


「早く退いてくれなきゃ見えないよ」


呟いて背伸びする香澄の視線は、停車した電車の後方へと注がれている。ドアが閉まって発車のベルが鳴り響く。


ゆっくりと走り出した電車の一番後ろの乗務員室から、制帽を被った頭が覗いてる。窓に肘を掛け、ホームを見ているのは曽我部さん。


電車は次第に速度を上げてく。


私たちの前を通り過ぎる曽我部さんが、ひらりと右手を挙げた。


にこりと笑って。


私は会釈することも忘れて、頼りなく手を翳すのが精一杯だった。


気づいてくれたことが嬉しい。
だけど、胸が苦しい。


遠ざかっていく曽我部さんの唇が動いていたけど、何を言っているのか聴き取ることはできなかった。


私たちは電車が見えなくまで、ホームで立ち尽くしていた。