そうしているうちに、電車は次の停車駅に近づいている。ブレーキ音が鳴り、再び車掌さんの声が降ってきた。
「香澄……私ね、昨日の帰りにこの人に会ったの」
車掌さんの声に消されてしまいそうになりながらも、勇気を出して打ち明けた。黙っているわけにはいかない、言わなくちゃと思ったから。
香澄は何と答えるだろう。
「この車掌さん? 見かけたの?」
「ううん、会ったの。帰りの電車で爆睡してたのを起こしてもらって、家の近くまで送ってもらったんだ」
勘違いしそうになったのを正したら、香澄の顔が僅かに強張った。明らかに驚いている。
「どんな人だった?」
「とても優しくて、いい感じの人だった、曽我部さんっていう名前で、同じ南高の出身だって教えてくれたの」
話している頭の中に昨日の曽我部さんの姿が浮かんできた。同時に胸がきゅっと締め付けられて、息苦しくて。