緊張する私に気づいてくれたのか、車掌さんが顔を緩ませる。だけど少し恥ずかしそうに口を尖らせた顔で、私を見下ろしたまま。


いい加減に目を逸らしてほしいのに、完全にタイミングを失っている。


「俺、車掌なんだけど、曽我部(そかべ)っていう名前だから一応覚えといてくれる? 君は?」


不意に投げ掛けられた言葉が、張り詰めた緊張の糸を揺らす。



いや、車掌さんの名前なら名札を見たから知ってるんだけど。そんなことより、どうして名前なんて聞くの?


まさか名前を聞かれるなんて思わなかったから、唇が震えてしまう。


「妹尾(せのお)麻衣です」


と絞り出した声は自分でも驚くほど小さくて、間違いなく聞き返されるだろうと身構える。しかも、どうしてフルネームで答えてしまったんだろう。