「家に連絡はいらないです、すぐ近くなので帰ります」
はっきりと言ったつもりなのに呂律が回ってない。いや、滑舌が悪い。恥ずかしくて顔を伏せた。
車掌さんが、ひとつ大きく息を吐く。
「よし、送っていくよ」
と言うなり、私のバッグを取り上げて。
「え? そんなのいいです、近いから」
想像もしなかった言葉に驚いて顔を上げたら、にっこり笑った車掌さん。制帽の鍔をぐいっと下ろした手を、私の前に差し出した。
「家の人に来てもらうのは嫌なんだろ? だけど、こんなにしんどそうなのに、ひとりじゃ帰せない」
「でも、仕事中……ですよね?」
すると車掌さんは事務室を見回して、私に耳打ちした。
「いいんだ、いい口実だから」
心地よい低音が体に沁みてく間に、車掌さんが離れていく。
ちらりと見上げたら、彼の瞳に吸い込まれそうになって、思わず息を止めた。