そうだ、この声に聴き覚えがある。
気づいたら余計に言葉が出なくなって、胸が高鳴り始めた。
乗務員さんの胸にぶら下がった名札には、『車掌 曽我部』と書いてある。
車掌さんに連れられて、私は駅の事務室に来た。事務室なんて入るのは初めてだし、目の前にはあの車掌さん。ドキドキしないはずはない。
思っていた通りの二枚目な男前というよりは、優しさの滲み出ている親しみやすそうな人。
「家はどこ?」
車内で降ってきてた声が、目の前から私に向けられている。問い掛けてくれる声に聴き入ってしまって、返事をすることもできない。
顔が熱いのは、熱があるからじゃない。
「お家の人に来てもらおうか?」
車掌さんは穏やかな顔を崩さないけど、そろそろ返事をしないとまずいとさすがに思った。