私は坂代駅から乗車した後、すぐに眠ってしまったらしい。乗った電車は大手駅止めだったから、私ひとり取り残されていたようだ。
まるで車内で眠り込んだ酔っ払いみたいに起こされたことが恥ずかしいけど、すぐに立ち上がることができない。
「歩ける? 無理ならお家の人に連絡して迎えに来てもらおうか?」
高校生なのにやたらと子供扱いした言い方に違和感を覚えながらも、呼び掛ける乗務員さんの声が心地よくて返事をすることも忘れて聴き入ってしまう。
「ちょっとだけ、ゴメンね」
と言って、乗務員さんは白い手袋を脱いだ。
その手が、私のおでこへとゆっくりと伸びてくる。大きくて柔らかい手のひらが触れて、乗務員さんが首を傾げる。
「熱はないみたいだね、とりあえず降りて事務室に行こうか」
柔らかな声に胸が震えた。