真っ暗な視界の中に、微かな音が降ってくる。ひらひらと舞い降りてくる音は耳に心地よく、重い体に沁みていく。


とんっと肩に触れた大きな感触。
その瞬間、音が人の声だったのだと気づいた。


「大丈夫? 体調悪いの?」


重い瞼の隙間から光が差し込んで、真ん中に浮かんだ影が私に呼び掛けてくる。


それは見覚えのある制帽を被った若い男の人。とても優しい顔をしているからか、胸がきゅうっと締め付けられた。


「立てる? しんどいけど、ちょっと移動しようか?」


柔らかな低い声が胸に沈んでいく。再び声を追いかけようとする私を引き止めるように、腕に大きな手が触れる。


「この電車、ここまでなんだ」


申し訳なさげな顔で告げられて、ようやく事態を察した。見回した車内には、がらんとして人の姿はない。