「南高校の生徒だよね? 僕も南高校出身なんだ、社会のゲラちゃんって、まだ居るの?」
駅員さんの突然の問いに、香澄と私は驚いて顔を見合わせた。すると続けざまに問い掛ける。
「斉藤先生、まだ授業でゲラダヒヒの話ししてるの?」
斉藤先生は世界史の先生で、愛称はゲラちゃん。斉藤先生はサルのゲラダヒヒのことが好きらしく、よく知っている。ゲラダヒヒの社会は人間社会に似ているところが多いのだと、度々授業を脱線して教えてくれる。
さらに斉藤先生のボサボサした髪は、授業中に見せてくれたゲラダヒヒの写真にそっくりだ。
「はい、よく授業が脱線してます」
斉藤先生を思い出した私たちが笑いそうになりながら答えると、
「そっか、まだ居たんだ。ヤツの授業って、それしか覚えてないもん。懐かしいなあ……」
と駅員さんは笑い出す。
眼鏡の奥の目を細めて。