ドキドキするけど人ごみの中にいることに比べたら、これぐらい簡単なことだと言い聞かせて。
「すみません、友人が定期券を落としてしまったんです。乗る時は使ったんですが……」
自動改札機を見渡せる窓口に居たのは、若い男性の駅員さん。私たちと年は変わらなさそうで、まだ初々しい雰囲気がぷんぷんしてる。
この人で大丈夫かなぁ……と、駅長室の中を覗いたけど誰も居ない。
話を聞き終えた駅員さんは僅かに顔を引きつらせて、制帽の裾から覗いた襟足の髪をくしゃりと掴んだ。
きっと余計な事を聞いてくれたものだと思っているに違いない。駅員さんの眼鏡の向こうの目が、私と香澄を捉えてる。