「預かるって……使わないなら処分すればいいじゃない」


健太の言葉に言い返した言葉はちっとも可愛くない。

もう会えないかもしれない奴のお願い事なんだから、素直に聞けば良いのに。
頭では分かっていても、口からはこんな言葉しか出ない。


私は平均なんかじゃない。ずっとそれ以下だ。

それでも、こんな可愛いげのない私の言い草に健太は笑った。


「使うよ、ちゃんと。ただ、向こうでは使わないから持っててほしいんだ」


いまいちピンと来なくて私は顔をしかめる。


「俺がこっちに来たときに使う」

「来たとき……?」

「うん、引っ越し先の学校、バイトして良いらしいからさ、バイトして金貯めて、連休にこっちに遊びにこれるようにしようと思ってる」


だからーー言い出すと同時に健太は私の方をまっすぐに見た。


「俺がこっちに来たら、野田がこの自転車に乗って迎えに来てよ」

「私に漕げっていうの?」

「行きだけだって。合流したら俺が今までみたいに野田を後ろに乗せて漕ぐから」


分からない。
何だってそんな提案するんだろう。


「そんなこと言ったって、向こうが楽しくなったら来るの面倒臭くなっちゃうんじゃないの?可愛い子も見つけちゃうかもだしさー……そしたらこれ、ただのガラクタになっちゃうじゃん」


向こうの生活だってある。こっちにばっかり構ってられないのが現実的な想像なんじゃないの?

最初はこっちにも友達がいるし、健太は言った通り来るかもしれない。
でも、それが段々減っていって自転車が使われないまま古びていく姿を見るのはきっと、最初から会えないって決めつけてた方が辛くないんじゃないかな。