でも、私は動かなかった。

どうせ勧誘か何かだし。宅配便なら再配達を頼めば良い。今はとにかく億劫で動きたくなかった。

しかし、無視をしているとインターホンは何度もなった。

最終的には鳴り終わる前に次の音が重なる状態の連呼となり、私はとうとう痺れを切らして応答した。


「……何ですか」


出来る限り不機嫌なことをアピールするために、声を低く小さくして私は答える。


「あ、やっと出た!俺俺!!」


額から頬にかけて汗が伝った。

ただし、これは暑いからじゃなくて冷や汗だ。
この声……健太。

とんでもない声で出てしまった!

全力で後悔しなが私はその場で狼狽える。
とんでもないのは声だけじゃない。

家に帰ってから着替えもしないで制服のままゴロゴロしてたからワイシャツもスカートもよれてるし、髪の毛もボサボサだ。

……どうしよう。とにかくちょっとでも時間を稼いで格好だけでも直したい。


「もしもーし、野田?」


応答したものの、そこから先の返事がないために健太は再度私を呼んだ。


「お……」

「何?」

「……おれおれ詐欺なら、間に合ってますけど」

「いいから玄関出てこい」

「……はい」


言い訳が見つからず、ふざけてみたのは逆効果だったみたい。
結局私はそのままの格好で出ざるを得ない感じになってしまった。

のそのそと気乗りしない風に玄関の扉を開けると、門の外に健太が立っていた。

健太は私の姿を認めると笑った。

「何?ひょっとして寝てた?超ヨレてる」

「……明日から夏休みだからいいんですー」


ああ、情けないやら恥ずかしいやらだ。
顔が上げられず、私は俯きながら言い訳してみせた。


「ほれ」 


俯く私の視界一杯に水色のビニール袋の柄が広がった。

商品名と、イメージキャラクターのイラスト。それが2つ、目の前に並んでいる。
見覚えがある。

健太がいつも買っているアイスだ。