帰りは一人、歩いて帰った。


健太は色々と挨拶だとか、聞かないといけない説明だとかがあるらしくて帰るのが遅くなるらしい。

きっと引っ越しの準備もあるのに大変だと思う。

ゆっくりと海を横目に坂を上る。

頭の上からは時雨なんて可愛いものじゃない蝉の鳴き声の嵐。
それに、焦げてしまいそうなくらいの強い日射し。

青い海と空。

絵に描いたような夏の光景。

別れには少し、哀愁が足りないようなキラキラとした世界。


その中で私一人、ぽっかりと空いた穴を体に持っているような喪失感に、この世界から取り残されたような気分になっていた。


家に帰ってからも、折角夏休みが始まるというのに元気が出なくて、ぼんやりと自分の部屋のベッドに手足を投げたして寝転んでいた。

クーラーもつけず、窓を開け放してあるだけの部屋には、ぬるい夏の昼間の風しか入ってこなくて、私はただ寝ているだけなのに汗をかいていた。


「あっつ……」


ぽつりと呟いた。

ーーアイス、食べたいな。

額に滲んできた汗を手で拭いながら思った。

体勢を変えずに、目線だけで部屋をぐるりと見回す。
机の上にエアコンのリモコンを見つけた。
でも、起き上がって取りに行くのが面倒で、私は小さく溜め息をついて寝返りを打つ。

まずい。私このままだと無気力なまま夏休みを終えてしまうかもしれない。
頭では分かってるけど体が動かない。
言いたいと思ってたこと言えて、すっきりしてるはずなのにな。
もう一度寝返りを打ってうずくまる。
そのまま寝入りそうになった瞬間、インターホンの音が家中に響き渡った。