よく懐いてるなぁ……。
主について歩くなんて、なんて賢い猫……。


長い渡り廊下を正宗さんと猫について歩いていると、前方から誰か歩いてきた。



「なぁんだ、茶室にいたの。待ってらんなくて探したよ」



静寂のお屋敷に似つかわしくない、明るい声が響いた。
目の前を歩く、正宗さんが小さくため息を零したのがわかった。


「……廉、用もないのに来るなって何度も言ってるだろ」

「相変わらずつれないねぇ。……あれ?やだ、正宗が女の子連れ込んでるっ」



ええっ


ギョッとしてると、そんなあたしの顔を覗き込むように、赤茶色のフワフワした髪が視界に割り込んできた。


「わぉ。かーわいいね。君、名前は?」

「え、あっ、あのっ」



正宗さんを飛び越えて、いきなり顔を出した、「廉」と呼ばれた彼はニコニコと人懐っこい笑みを浮かべてあたしの手を掴んだ。


「……廉次やめないか。怯えてるじゃないか」

「ええ~?そうなの?そんな事ないよね~?かわいいじゃな~い」



ひええええ!

なに、なにこの人っ



近づいた瞬間、物凄く甘ったるい香水の香りに包まれた。

むせ返りそう……。

軽口を吐いていても、ニコニコ微笑む垂れ目のその向こうに、感じる違和感。


……? この人……。



その時、グイッと強い力で肩を引き寄せられた。




えっ