真っ黒な瞳。
トワの蒼穹のような藍色の瞳とは、違う……漆黒の闇。

ぽっかりと穴が開いてるみたいで、ゾクリとした。


「猫はお好きですか?」

「え?」


いきなりの質問に、きょとんとしてしまう。

ね、猫?


ふと思い出して雪見障子を見た。

でも、もうそこにはさっきの黒猫の姿はなく、いつのまにか坪庭の葉に真っ白な雪が落ちてきていた。



「……嫌い、じゃあ……ないです」

「そうですか。それはよかった」



まるで葉に落ちて、消えていく雪のような声で呟いたあたしに、正宗さんは嬉しそうに笑った。


え、雪?

って、しかも、今何時?
授業サボっちゃった!


急に忘れていた事を思い出した。

と、その時だった。






「正宗様、廉次様がお見えです」


えっ 誰かいたの?

誰もいないと思ってた……。



「わかりました」



正宗さんはそう言うと、「さて」とゆっくりと立ち上がった。


「すっかり長居させてしまいましたね。帰り道は、また彼に案内させますから、心配しないで下さいね」

「え?」



気が付くと、正宗さんの足元に小さな黒猫がいて、その金色の瞳でジッとあたしを見つめていた。


音もなく現れた猫に驚いていると、襖を開けた正宗さんが「行きましょうか」とこちらを振り返った。