はあっ、はあっ。



「もぉ、どこ行ったのぉ?」



ここ、どこなのよぉ。
猫を追いかけていたら、見知らぬ場所まで来てしまっていた。

びっしりと立ち並ぶ住宅街。
その路地裏を抜けて、あたしは今竹林の中を歩いていた。

この町に、こんな場所があったなんて。
全然知らなかった。



そろそろ戻らないと、授業始まっちゃう。

携帯も忘れた事に気付いて、はあとため息をついた。



「……」



でも。

見つからなくて、よかったのかも。
松田くんと一緒に選んだものなんて……。


そこまで考えてフルフルと首を振った。




はあ……あたし、ほんと最低。


自分が心底嫌いになりそうで、唇を噛みしめた、その時。
目の前に、大きな門がある事に気付いた。


「うわぁ……すごい家……」



少しだけ歩み寄ると、木の香りがふわりと立ち込めた。
左右を見ても、その塀はどこまで続いているような気にさえ感じる。


すんごいお屋敷。

表札を見ると、そこには三國と太い字で書かれている。


「……ミクニ?」

「はい?」


小さく呟くと、すぐ後ろから声が息を呑んだ。



振り向くと、長身の男の人が穏やかな笑みを零していた。