ほんと、頭のネジが1つ、いや5つくらい欠けて生まれてきたんじゃないかと毎回疑う。
しかし、勉強はできるからなんとも言えない。
毎回振り回されているけど、不思議と嫌な気分にはならない。
むしろそんな馬鹿なことやってる絢斗を見ていると、面白くて仕方のない時がある。
なんていうか、やめられないというか。
まぁでも、絢斗のアホさ加減には呆れることもあるけど・・・・・。
「なにボーっとしてんの?」
その声にハッと現実に引き戻された。
目の前にはいつもと変わらず絢斗。
そして机の上には勉強道具。
そう。あたし達は今、絢斗の家で中間考査と言う名の試練に立ち向かおうとしている。
「いや、なんでもない」
そう答えてあたしは教科書へと向き直る。
・・・・・また随分と前のこと思い出してたな。
丘から転がり落ちた時の絢斗を思い出して、吹き出しそうになるのを堪える。
「・・・・・あやか、鼻の穴ヒクヒクなってキモ、」
「シャラップお黙りなさい」
そう言ってあたしは机に置かれた絢斗の手に分厚い辞書を角から落とした。
「ギャァァァァア!!てっめ、何すんだよ!!」
若干涙目になり床をのたうち回りながら、絢斗が叫んだ。
「かわいい乙女にキモイなんて言ってはいけません」
まったく、礼儀がなってないんだから。
そう言って髪をかきあげると、いつの間にか起き上がってあたしを見ていた絢斗が、
「ぐふぅ!!」
と吹き出した。
「・・・・・おい」
「・・・・・」
「・・・・・絢斗、」
「・・・・・」
「・・・・・鼻水とつば飛んだんだけど」
「すまん」
袖で荒々しくあたしの顔を拭きながら、未だに絢斗の肩は震えていた。
「なによ、笑いたいなら笑えばいいでしょ」
顔を拭かれながらそう言った途端、大声で笑い出す絢斗。
「ぎゃっはははは!!まったく、礼儀がなってないんだから・・・・・って何キャラだよあやか!!なぁ!!」
ご丁寧に髪をかきあげる仕草まで再現してくれた絢斗。
今度は大笑いしながら床をのたうち回っている。
「ふふふふふ」
「あっははは・・・・・は、あ、待ってあやか」
「ふふふ、待たない♡」
「ギャァァァァア!!」
絢斗のすねに、本日2度目の辞書の角がクリーンヒットした。
───翌日、
「おはよー」
「はよー」
「昨日のテレビ見た!?」
「見た見たっ!!あれまじさぁ───」
たくさんの生徒がいる中、あたしは自分の教室である2年3組を目指していた。
すると、
「おっはよー!!」
ドシーン!!という効果音でも鳴りそうな衝撃が、突如背中に降りかかってきた。
「い゛っ!?」
そのまま前のめりに倒れそうになるあたしを、激突してきた本人が引っ張った。
「なんや、あやか。か弱い女の子のフリか?そんなん俺には通用せぇへんで」
あたしを引き起こしながらとんだ失礼を言うこいつは、柳龍平(ヤナギリュウヘイ)。
関西から引っ越してきたとかなんとか。
絢斗といつも一緒にいる奴だ。
そして、こいつも変人。
というかもしかしたら龍平は、もともとは普通の人だったのかもしれない。
だけど、絢斗に感化されて────
「俺な、昨日目ぇ開けたままくしゃみできるようになってん」
・・・・・変人へと退化していた。
「ちょお待ってな。今見せたるから」
そう言ってポケットをあさり出したかと思うと、ポケットティッシュを取り出した。
「・・・・・あんた、高校生にもなってポケットティッシュ常備してるって、女子かよ」
「ちゃうねん。今日その目ぇ開けたままくしゃみができるのをみんなに見せるために持っててん。ほな見ててな」
龍平はポケットティッシュをこよりにし、鼻の穴に入れるとすぐに顔が歪み出した。
「わー、すごいすごい。ほんとに目開けたままくしゃみできてるよー。うん、すごい」
「ちょお待て。俺まだやっとらへん」
すでに教室へと向かいだしていたあたしの肩をつかみ、龍平が言った。
「はぁ。わかった。その特技は絢斗がきた時にでもやって。きっと絢斗も馬鹿なことして対抗してくるから」
すると、
「え!?ほんまか!?だったら俺も絢斗に負けへんように、ふぁ、ぶぁっくしょん!!」
「ギャァァァァア!!!!」
なんと、龍平はしゃべりながら急にくしゃみをしてきたのだった。
しかも、思いっきりあたしに向かって。
「なぁ!!なぁ!!見てたか!?今ちゃんと目ぇ開けたまま、」
「そんなこといいから早くこの唾と鼻水拭きなさいよ!!!!!!!!!」
あたしは唾と鼻水が飛んだ制服部分を掴みながら、龍平に詰め寄った。
「なんや、こんなん聖水やないか」
そうブツブツ言いながら、龍平は制服の袖で拭き始めた。
「は!?こんなのが聖水!?汚染水の間違いでしょ!!そして今こそポケットティッシュ使うべきじゃないの!?」
「!!!」
「そうだった!!みたいな顔してないで早く拭いて」
イライラした口調でそういうと、
「へいへい」
と言って龍平はティッシュで拭き始めた。
・・・・・もうやだこの連中。
絢斗の周りにはまともなのいない。
はぁ、と項垂れるあたしに、
「・・・・・もっかいやったろか?」
と龍平が遠慮がちに聞いてきた。