どうしたのだろう。

「凌祐?遅刻しちゃうよ?」

すると、凌祐は小さく笑みを浮かべた。

「俺も、毎朝したい事があるんだけど」

「したい事?何なの?」

「これ」

ほとんど油断していた私に、凌祐はさっと唇を重ねたのだった。

「“行ってきます”のキス」

「い、行ってらっしゃいじゃなくて…?」

胸のときめきを感じながらも、それを誤魔化す為に何か言おうとしたら、そんなどうでもいい質問をしていた。

だけど、その質問はさらに、胸のときめきを強くさせるものになったのだった。

「“行ってきます”だよ。俺からしたいから」

そう言うと凌祐は、手を軽く振って玄関を出たのだった。

そして私はというと、しばらくキスの余韻に浸りながら、その場に立ち尽くしてしまった。

「凌祐ってばズルイよ」

もう会いたくなったじゃない。

夜まで会えないのに…。

朝から私の心は、凌祐でいっぱいになっていったのだった。