そんな凌祐の胸にそっと手を触れ、穏やかに言った。
「何も心配しないでよ凌祐。私たち夫婦なのよ?誰も入り込む隙間なんてないんだから」
そう。
ようやく、想いが通じ合ったのだ。
出来るだけ、凌祐との仲に波風を立てたくない。
そう思うのは凌祐も同じなのか、すぐにいつもの優しい笑顔を浮かべた。
「そうだよな、ごめん。じゃあ、何か困った事があれば、必ず言うんだぞ?」
「うん。ありがとう」
凌祐は、用意をした朝食を完食して、着替えに向かったのだった。
「あ、待って!」
凌祐が着替える時に、どうしてもやりたい事がある。
「なんだ?」
シャツを着た凌祐がネクタイに手を伸ばした時、それを私が奪ったのだった。
「一回やってみたかったの。こういうの」
ネクタイを回し、それを結び始めた。
実は私の密かな夢だったりする。
好きな人のネクタイを締めるという行為が。
そんな私に凌祐は一瞬、呆気に取られた様だったけれど、すぐに笑顔を戻したのだった。
「じゃあ、毎朝して欲しいな」
「うん。毎朝やる」
ネクタイを締め終わり、ジャケットを羽織った凌祐は、玄関へ急いだ。
「じゃあね。行ってらっしゃい」
小さく手を振ると、凌祐は一瞬間を置いた。