分からないけれど、辞めたくない気持ちには間違いなかった。
だけど凌祐は、小さく首を横に振ったのだった。
「その事は、振り回して本当に悪かったと思ってる。だけど、俺は美亜には仕事を辞めて欲しいんだ」
「何で!?私じゃ、役に立たないから?」
食らいつく私をなだめる様に、凌祐は優しく手を握った。
「そうじゃないよ。俺と結婚をして、生活を続けるという事は、意外と大変な事なんだ」
「大変な事?」
「そうだよ。社長夫人といっても、華やかに暮らしていけるだけじゃない。人間関係のしがらみもあるんだ」
人間関係のしがらみとは、どういう意味なのか?
顔をしかめていると、凌祐は続けた。
「社長夫人同士の交流やら、会合やら神経を擦り減らす事が多いんだ。だから、美亜にはせめて仕事でのストレスからは、解放してもらいたくて…」
社長夫人同士の交流なんて、私には未知の世界だけれど、想像すると決して楽ではない事は分かる。
「その為に、仕事を辞めろと言うのね?」
「そうだよ。何もかもが身勝手な願いだけれど、分かって欲しい」
凌祐の言葉に、私は大きく頷いたのだった。