あたしはただ、黙って首を横に振っていた。



「そんなんじゃないっ……あたしは……ただ……」



ただ……なにが言いたかったのか、



自分でもよくわからなくなっていた。



あたし、井上くんのこと…なにも知らない。



一緒に住んでたけど、ほんの少しの間だし。










だけど……



だけど、



あたしにだけって言って、



ボーカルレッスンに行ってることを教えてくれて、



夢は世界一のアーティストになることだとか、



ホントに……仲のいい友達みたいに、話してくれた。



そういう自分が、他の女の子と同等に、



ただ、誰でもいいっていう対象として扱われるのが、とてつもなく嫌で。



胸の奥を鷲掴みされているかのように、ギューッと苦しくなってくる。