「あれ?忘れちゃった?だよなー、この十年で大分かわったし。でもお前は全然変わってねーな」

「おい、知憲。知り合いかよ。」

「うん。高校の時の後輩。懐かしーなー」

俺はその場から動くことも喋ることもままならなかった。
あれから10年。
一度も会うことがなかった。
他のOBの先輩方は度々部活に顔を出してくれていたが
部長だけは、一度も、なかった。

部長。
吉原知憲(よしはらとものり)先輩。

忘れることなんて出来なかった。
俺はあなたみたいな男になりたかった。
その部長が、なんでこんな、落ちこぼれの部署に。

「お久しぶりです。

「あ、覚えてたか。よかった、俺だけ舞い上がっちゃって恥ずかしいな。」

「いえ。」

部長が高校の時と同じように俺に話しかけるたび、情けなくなる。

なんであんたがここにいるんだ!

俺が呆然としていると月島さんが耳打ちをした。
大方俺が部長なことをいっているのだろう。
だったら

「俺が、青陽のテニス部にはいってたときは吉原サンが部長でしたが今回は逆。俺が部長です。俺がここにきた理由はひとつ。この腐った菓子事業企画マーケティング部を立て直すことです。いくら先輩といえど、容赦はしませんので。吉原サン。」

そういうと部長はへぇ…と一言いい、楽しそうに笑った。

「楽しみにしてるよ。」

なんでかしらないがこの人たちは部長という存在を目の敵にしているらしい。
それなら俺は真っ向から対決しようじゃないか。
俺の出世のために。