「俺はやらねぇぞ。そんなめんどくせぇこと。このままの仕事の方が楽だし、何もしてなくったって給料がもらえる。」

月島さんはそういって落していた鞄と自分の背広を拾ってオフィスへと向かった。

「・・・えらいことやと思うけど、俺らそういうのもうええねん。」

佐藤さんも月島さんの後を追うように去って行った。

「・・・。」

正面にいる部長を真っ直ぐみつめる。
この人だって本当は商品を作りたいはずなんだ。
月島さんも、佐藤さんも、栄さんも。

「作りましょうよ。新しいお菓子。」

俺は部長を見つめ続けた。

「俺はくやしかったです。せっかく自分が企画した物を没にされたのが。」

「・・・。」

「今まで俺は自分で言うのもなんですが、失敗したことがなかったんです。仕事に置いては特に。だから吉原さんが言っていたことはただの甘えだと考えていました。」

「・・・。」

部長も俺を見つめ続ける。

「でも違った。そんなのは関係なかった。実はあの企画書、吉原さんだけじゃなくて開発部の人にもよくできていると評価してもらえたんです。そして違う部署に異動してやってみないか、ともいってもらいました。」

「・・・。」

「でも、俺はそんなのは嫌でした。だってこの企画書を通して、みんなで製品を開発して、吉原さんに昔のようになってほしかった。」

「昔のように・・・?」

初めて部長が反応した。

「昔みたいに、俺の先をいって、周りをひっぱれる、そんな部長に戻ってほしかったんです。」

「・・・俺は昔の部長とは違う。」

俺からの視線をはずし、部長はうつむいた。

「そんなことありません!」

すかさず前に歩み寄り、部長の手をつかむ。

「俺が落ち込んでた時に励ましてくれたのは他の誰でもない吉原さんです。その時、吉原さんも本当は商品を作りたいんだってわかりました。」

「そんなこと・・・」

「ある!」

更に前に詰め寄り顔を近づける。
高校のときは10センチ以上も身長差があったのに、今はもうそんなに変わらない。

「俺に任せてください!俺がこの体制をぶっ壊します。だから、今度は俺に頼ってください。」

「・・・結城。」

俺と部長の視線がぶつかり、しばらくみつめあう。

「手、痛い。それに近い。」

「え、あ、すいません。」

「いーよ、別に。」

ぱっと手を離して距離を取る。

「泣き虫のお前からそんな言葉きくなんてな。」

部長は俺のところまで歩いてきた。

「頼っても、いいか?」

「はい!」

俺たちはオフィスに向かった。